東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)139号 判決
原告主張の本件審決を取消すべき事由について判断する。
1 引用意匠を示した図面であることか当事者間に争いのない別紙(二)並びに成立に争いのない甲第三号証の一、二及び乙第一号証の一(引用意匠が登載された「アサヒグラフ」の表紙)、同号証の二(右「アサヒグラフ」の二二頁)、同号証の三(右「アサヒグラフ」中の引用意匠部分の拡大写真)、同号証の四(右「アサヒグラフ」の裏表紙)、同号証の五(右「アサヒグラフ」の裏表紙中の発行年月日部分の拡大写真)によれば、引用意匠の態様は、正面を向いた親パンダが両脚を前方へ折り曲げ、両腕を前方へ出して坐つたポーズをとり、その腹部正面に両脚を前方へ折り曲げ腕を前にまわし、やはり正面を向いて座ったポーズの子パンダの頭部両側に両手を当て、子パンダを抱きかかえているものであることが認められる。したがつて、本件審決が、引用意匠の基本的形状の認定(前記当事者間に争いのない請求の原因二本件審決の理由の要点3参照)のなかで、親パンダが子パンダを抱きかかえている旨認定した点に誤りは認められず、また、前掲乙第一号証の三によれば、引用意匠において子パンダの頭部に当てられた親パンダの手が子パンダの首部にまで及んでいると見られないではないから、親パンダが子パンダの首の側面を抱いている旨の引用意匠の具体的構成態様についての本件審決の認定も誤りとは言えない。
原告は、引用意匠の親パンダは子パンダを抱きかかえているものではない旨主張するところ、前掲乙第一号証の三によれば、引用意匠においては、親パンダと子パンダはいずれも同じ床面に座つた状態で、子パンダは親パンダによつて床面からかかえ上げられてはいないことが認められるが、前記認定の引用意匠の形態においても、親パンダが子パンダを抱きかかえている態様の一形態であると認め得るから、原告の右主張は採用できない。なお、原告は、前掲甲第三号証の一、二によつても親パンダの両手が子パンダの頭部に接触しているとは確認できないとして引用意匠についての本件審決の、親パンダが子パンダを抱きかかえている旨の前記認定を誤りである旨主張するところ、なるほど前掲甲第三号証の一、二からは引用意匠の親パンダの両手が子パンダの頭部に接触している態様を確認することはやや困難であるけれども、前掲乙第一号証の三からは引用意匠の親パンダの両手が子パンダの頭部の両側に接触している態様を確認することが可能であるから、原告の右主張も採用できない。
2 本件意匠を示した図面であることが当事者間に争いのない別紙(一)及び前掲別紙(二)並びに引用意匠の態様についての前記認定事実によれば、本件意匠と引用意匠とは、本件審決が認定した基本的構成態様(前記本件審決の理由の要点3参照)において一致し、具体的構成態様においても本件審決が認定した差異点等(同3参照)で差異が認められるのみでその余の点ではほぼ一致していることが認められる。そして、以上の一致点、差異点等を総合して両意匠を全体として見ると、両意匠とも、両脚を前方へ折り曲げて坐つた親パンダがその腹部正面に親パンダとほぼ同様のポーズをした子パンダを抱きかかえている本件審決挙示の基本的構成態様の一致点によつて、共に親パンダと子パンダとが形態的にも情感的にも一体となつた印象を強く看者に与えるものであつて、右一致点が両意匠の要部をなし看者の最も注目を引くところであると認められる。したがつて、両意匠には本件審決挙示の具体的構成態様において前叙の差異等が認められるものの、それらの差異等は、両意匠の前叙の基本的構成態様の一致点のうちにあつて、その形態に若干の変更を加えた程度の差異に止まるにすぎないものというべきである。そうすると、両意匠は美感を共通にするものと認められるところ、両意匠の意匠に係る物品がともに本件審決の認定する動物おもちやであることは当事者間に争いがないから、両意匠は意匠に係る物品が一致し、したがつて、両意匠は類似するといわざるを得ない。これと同旨の本件審決の認定判断に誤りはない。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないのでこれを棄却する。
〔編注〕本件における特許庁の手続及び審決の要点は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、意匠に係る物品を「動物おもちや」とする別紙(一)に記載のとおりの構成からなる登録第五二一四四四号意匠(昭和五二年九月二日出願、昭和五四年九月二八日登録。以下、「本件意匠」という。)の意匠権者であるところ、被告は、原告を被請求人として特許庁に対し本件意匠の意匠登録を無効にすることの審判を請求した。特許庁は、これを同庁昭和五八年審判第二五八八九号事件として審理したうえ昭和六三年五月一八日本件意匠の意匠登録を無効とする旨の審決をし、その謄本は同年六月八日原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点
1 本件意匠の意匠に係る物品、形態(構成)及び出願、登録関係は前項のとおりである。
2 これに対し、国内雑誌である昭和四七年一一月三日発行の「アサヒグラフ」一一月三日号二二頁上より三段目左端より二コマ目に現された意匠(以下、「引用意匠」という。)は意匠に係る物品を「動物おもちや」とし、その形態を別紙(二)に示すとおりにしたものである。
3 両意匠を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品が使用目的を同一にした同種で、意匠に係る形態において、ほぼ正面を向いた親パンダが両脚を前方へ折り曲げ、両腕を前方へ出して坐つたポーズを形成している点、その親パンダは、その腹部正面にやはり両脚を前方へ折り曲げ、ほぼ正面を向いた子パンダを抱きかかえている点等の各部の基本的形状及びそれらによつて構成された全体の基本的構成態様が一致しているものと認められる。更に、両意匠は、全体の具体的構成態様においても、次の各点に差異が認められるのみであつて、その余の点につきほぼ一致しているものと認められる。
即ち、両意匠は各部の具体的構成態様のうち、親パンダにつき、本件意匠のものは頭部をやや右上方に向け、両腕をその先端が接触するくらい前にまわし子パンダの首の下を抱いているのに対し、引用意匠のものは頭部を正面に向け、両腕をやや前方に差し出し、子パンダの首の側面を抱いている点、子パンダにつき、本件意匠のものは首に鈴をつけ、やや小さめのものとしているのに対し、引用意匠のものは腕を前にまわしたやや大きめのものとしている点等に差異が認められる。
4 以上の一致点、差異点等を総合して両意匠を全体として考察すると、両意匠は、前記の如くその具体的構成態様においては若干の差異が認められるものであるが、前記の如く基本的構成態様においてはほぼ一致するものである。殊に、両脚を前方へ折り曲げて坐つた親パンダが、その腹部正面に親パンダとほぼ同様のポーズをした子パンダを抱きかかえているという両者に共通する構成態様が、両意匠の形態上の特徴として視覚的に強い印象を与える点であり、意匠上の要部と認められるものであるから、これらの一致点、共通点が差異点を凌駕して看者に類似感を惹起せしめるものと認めざるを得ない。したがつて前記の各点において一致し、共通する両意匠は全体として観察した場合互いに類似するものと認められる。
5 以上のとおりであるから、本件意匠は意匠法三条一項三号の規定に該当し、同法四八条一項の規定によりその登録を無効とされるべきものである。